top of page
後藤智子弁護士のインサイトページ

INSIGHT

インサイト

ABOUT

映画 "ON THE BASIS of SEX" ~ ビリーブ 未来への大逆転(1)


アメリカの連邦最高裁で判事をつとめたルース・ベイダー・ギンズバーグ(Ruth Bader Ginsburg)についての実話をもとに作られた映画です。職業柄、たくさん思うところがある映画です。何回かに分けてブログ記事を書きたいと思います。


丁度、確定申告の時期のため、まずは、税法から。


この映画は、ギンズバーグ判事が大学教授だった頃の訴訟を素材にしています。当時の連邦税法には、扶養家族のための介護費用について、所得税控除を認める条項がありました。もっとも、その所得控除を受けることのできる主体には、一度も結婚したことのない男性が含まれていませんでした。どうやら、立法者は、一度も結婚したことのない男性に扶養家族の介護費用がかかることを想定していなかったようです。このため、自宅で母親を介護しつつ営業職として働いている未婚の男性が、母親のために介護人を雇った費用について所得控除を申告したところ、これが認められませんでした。男性は、租税裁判所、いわゆる一審にあたる裁判所で敗訴します。ルースの夫・マーティンは、税法を専門とする弁護士でした。マーティンは、この租税裁判所の判決をルースに紹介します。ルースは、この事件をきっかけにして、当時合法とされていた男女差別が憲法違反であると裁判所に認めさせることができると考え、ギンズバーグ夫妻は、控訴審からこの男性の代理人になります。そして、控訴審において、問題となる条項が性別のみを理由とした差別であって連邦憲法14条に違反して無効であるという判決を勝ち取りました。Moritz v. Commissioner, 469 F.2d 466 (1972)


ここで重要なことは、裁判所が、性別による差別が憲法違反であることを認めて、これを判決文に明記した、ということにありました。それまでは、差別といえば人種差別を意味するものと捉えられていて、性別による差別は憲法に違反しないと考えられていました。ギンズバーグ夫妻が勝ち取った判決が先例の一つとなり、その後、性別による差別を規定した法律が憲法違反であるとする判決が次々に出されることになります。


マーティンのセリフに、"How a government taxes the citizen is the direct decoration of the country values."「国民への税のかけ方に国の価値が表われる」(字幕翻訳:齋藤敦子)というものがあります。マーティンは、スウェーデンのJoint Tax Return(共同税申告)を例にとって、スウェーデンは、アメリカとは異なり、Joint Tax Returnを利用する夫婦に特典を与えず、むしろJoint Tax Returnを利用すると高額の税金が賦課される仕組みにしていたため、若者が結婚を選ばなくなったという話をしています。


税率

単独で申告する場合

婚姻夫婦が合算申告する場合

37%

$626,350超

$751,600超

35%

$250,525超~$626,350

$501,050超~$751,600

32%

$197,300超~$250,525

$394,600超~$501,050

24%

$103,350超~$197,300

$206,700超~$394,600

22%

$48,475超~$103,350

$96,950超~$206,700

12%

$11,925超~$48,475

$23,850超~$96,950

10%

$11,925以下

$23,850以下

上の表によると、夫婦が別々に税申告するより、共同で申告した場合、税率の低い枠に入ることがお分かりいただけるでしょうか。単純に上の表だけでは変わらないこともありますが、他にも、婚姻夫婦に認められる控除項目があるため、共同で申告した方が税金が低くなる場合があるのです。


つまり、当時のスウェーデンでは、上記右端のような特典を設けなかったために、夫婦が収入を合算すると税率の高い枠に入って税金が高くなるため、若者が結婚しなくなったというのです。実際のところは分かりません。映画の中の話です。


ちなみに、アメリカでは、婚姻夫婦が共同で税申告するか、別々に申告するかを選ぶことができます。各控除項目の金額には上限があるため、別々に申告した方が、所得控除をたくさん受けられる場合があります。


さて、日本の税法はどうでしょう。日本には、アメリカのようなJoint Tax Returnの制度はありません。他方、丁度、〇〇〇万円の壁が議論されているように、日本の税法によると、夫婦共働きでも、典型的には、妻の収入が一定金額を超えないように動機づける仕組みになっています。すなわち、年収103万円を超えると非課税でなくなり、年収130万円を超えると扶養から外れて社会保険料を払わなければなるため、収入が上がっても、かえって手取りが減るため、それなら働き過ぎを控えよう、という具合です。もちろん、更に働いて収入が増えれば、税金や社会保険料を支払っても手取りも増えるラインがあるわけですが、家庭の事情であったり、もともと給与が上がらないとなると、結局、年収〇〇〇万円の壁を気にかけながら働かざるを得ないわけです。


このように、所得税の課税の仕組みが人々の働き方を決めるとも言えます。今の仕組みは、夫が外で働き、妻が家庭に入るということが一般的であった頃の考え方を基礎に出来上がってきました。人々の暮らしの変化に合わせて税法の改正が追い付いていない理由は、色々あると思います。


アメリカのロースクール卒業後は現地で働いていましたので、私はアメリカで確定申告を経験しました。ロースクールではIntroduction to Taxation(税制入門)という授業を選択したので、連邦所得税について多少の知識はありました。もっとも、Form 1040の説明書を見ながら記載すれば、比較的簡単に申告書の作成ができたのを覚えています。


最新記事

アメリカ訴訟サポート

アメリカで訴訟等に巻き込まれた場合、事業者であれば、ビジネスへの影響に対する不安が大きいと思います。大手企業の場合、まったくの不意打ちで訴えられるということは考え難いのですが、中小企業であったり個人事業主の場合には、いきなり訴えられたということはあるかもしれません。  ...

 
 
 
契約書の作成から、契約交渉も

企業の法務部が行う契約業務のイメージといえば、事業部等から契約書の相談があると、その内容を確認し、適宜文言を修正して、その修正入りの契約書を相談部署に戻す仕事ではないかと思います。この業務の流れの途中で、法務部員は、担当者に実際の取引実務を確認したり、企業として受忍できる範...

 
 
 
数字は正直、ただし、その説明には見せ方も大事

仕事柄、数字を扱うことが多いのですが、数字から事実関係が見えてくることは多々あります。 アメリカの訴訟ではディスカバリー制度があって、事実調査でかなり精度の高い数字の分析が可能になります。ところが、日本の訴訟ではそうはいかないのが悲しいところです。...

 
 
 

コメント


bottom of page